‐むいかめ‐

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扉を開けて中に入ると真っ白な壁、真っ白な床。 今まで暗い所にいた私には眩しいくらいの白さ。 ピアノを弾く音がする。 ということは人が居る。 その人が、怖いのか優しいのか、そんなの私が分かるわけがない。 けど、何だろう、このあったかさ。 全身黒い服を着た男の人がピアノの鍵盤を優しく叩いていた。 音が私の心を洗っていくような、そんな感じの音。 男の人が私に気付いてふっと笑って言った。 「いらっしゃい、窓付きさん。」 戸惑う私の背中を押して、私は椅子に促されて、気付いたら座っていた。 「嗚呼、そうだ。僕の事は先生とでも呼んでくれ。本当の名前は余りに長いからね。」 マグカップを私に差し出す先生。 中身はコーヒー。 あったかいコーヒー。 あの、と私が切り出そうとすると、先生はそれを抑制して 「君が言いたい事は分かるよ。何故僕が君を知っているか、とかね。」 コーヒーを一口飲んで、満足そうな顔を浮かべた。 「その答えは、君が作り出した産物だから。納得した?」 そう言って、また笑った。 思わず、顔を赤らめて、目を逸らす私。 「夢は深層心理を表す。聞いた話だとね。」 私の事? そんな風に尋ねると、こくりと頷く。 「もしその言葉が本当だとすると、この夢は、君の経験や記憶の世界だ。 一部は君の創造したモノだけどね。 深くは分からない。君の夢だから。 分からないからアドバイスもできない。 非力でゴメン…。 ただ、どんな事があっても自暴自棄になったらダメだよ? これは絶対だ。」 急に厳しい顔になる先生に、少し驚きながらコーヒーを一口飲んで頷いた。
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