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穏やかな物腰で促され、鏡台に座らされると、今度は髪と顔を整えられる。
ふくらはぎまで届く長い銀髪に良い香りのする油を垂らし、金の櫛で何度も何度も丁寧にすき。艶が出てきたところで素早く正確に結っていく。今日は片方に高くまとめ、生花で留めるようだ。余った髪は軽く巻き、そのまま肩に垂らす。
元々きめ細かくシミ一つ無い少女の肌は、厚く装う必要も無く、化粧はいつも最低限のものだ。紅をさし、眉を整え、顔色が悪ければほんの少しだけ頬に色を入れる。
そうして完成された鏡の中の少女は詩に詠まれる魔王にふさわしい品格と威厳を兼ね備える。
血濡れた月夜に産まれし魔の君。
真珠の柔肌。
硝子の絹糸、銀の髪。
王の証、紫の瞳。
産声夜を従え、王となる――。
史上最も若く最も力に溢れた麗しい魔王の背後に映るのは、赤い髪と瞳を持つ執事の無感情面。
こうして魔王ルードヴィカの退屈な一日がまた始まるのだ。
* * *
【魔王様の退屈な日常】
完結(2009/4/7)
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