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あれから2年が過ぎようとしていた。
思い返せばあっという間だったような、果てしなく長かったような、そんな2年だった。
直江信綱とは、あの後2度春日山で会ったきりだが、相変わらずあちこちを飛び回っているらしい。
高耶と行った場所をたどっているのだろう、と千秋は思った。
考えてみれば切なすぎる選択だ。
二度と会えない人間を、永遠に愛し続けるなんて…。
それが妙に納得のいく答えだったのは、それをしているのが直江だからだろう。
高耶には、できない。
結果がもしも逆だったなら。逝くのが直江だったなら…。
(俺が調伏してやったんだろうな、お前を。なぁ、景虎)
晴家は一命を取り留めた。
退院の日に会いに行ったら、せっかくもらった命だから、門脇綾子の生を全うすると言っていた。
「一度くらい、あんたと浮気してもいいかもね」などと嘯いていたが、やはり慎太郎を待つ気持ちは変わらないのだろう。
「景虎のことは、直江が背負うから私は嘆かないことにした。泣いたら景虎が辛いだろうから。あの子、人の痛みは自分のものより痛いのよね」
懐かしそうにそう言う晴家の目は、どこか決意に満ちていた。
彼女は彼女の道を、歩いていくのだろう、きっと。
そして俺はといえば……。
一通りの邂逅のあと、千秋は視線を一度横にいる隆也にやって、再び空へ戻す。
(俺はと言えば……)
いまはこいつと共にいる。
信長との決戦のあと、隆也と合流した千秋だったが、あのときのこいつの様子は、あれはまさにもう一つの惨事だったように思う。
武藤の死を目の当たりにし、その後の高耶の死の知らせだった。
現実を受け入れたくなくて、鳥越隆也は子供のように泣いていた。
少し前の「高耶」を見ているようだった。
景虎の死を受け入れた後の安田長秀には、それがたまらなく辛かった。
衝動だったと思う。
泣きわめいて誰も手をつけられなくなっていた隆也を、思う様抱きしめた。
「泣くんじゃねぇよ」
感情を押し殺してそう告げる。
いままで何度か見てきた彼とは明らかに違う千秋の様子に気づいて、隆也は瞬間、動きを止めた。
千秋の肩がかすかに震えている。
「………。千秋…さん…?」
隆也の耳に届いた千秋修平の声は、彼の深い慟哭のようだった。
平静を取り戻した隆也は、何も言わない千秋に寄り添うように座り、しばらく傍を離れなかった。
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