始まりの予感

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「あいつはお前がいたから、最後にあの答えを出したんだろうな……」 空を見つめたまま千秋は言う。 「俺じゃないですよ」 千秋の言葉を隆也は静かに否定した。 「俺なんか、あとから出てきて勝手に突っ走って、足引っ張っただけで」 「そんなことねぇよ」 千秋の様子がいつもと少し違う。隆也は顔をのぞき込むようにして問いかけた。 「どうしたんすか?」 「……別に」 返事はするものの、目を合わそうとしない千秋に、隆也は苦笑して同じように空へと視線を投げる。 「覚えてます?仰木が死んだって聞いて、本当にショックで、俺自分の無力さを呪いました。あいつは命賭けて、俺にいろんなもの教えてくれたのに、俺なんかに、あいつの希望託してくれたのに、本当に何もできなくて、自分のことだけ考えて、突っ走って、結局仰木にはなにも、してやれなかった。あのとき俺がそう言って泣いてたら、貴方がなんて言ったか、覚えてますか?」 「………」 「『諦めろ』って。どうせなにもできないから諦めろって。キツイよなぁ」 懐かしそうにそう言って笑う隆也に、千秋もかすかに口元をゆるめた。 「言われたときは正直ちょっと、怒りすら覚えましたけど、でも、あれ本当は、千秋さん自分自身に言ってたでしょ。あのあとも、自分じゃないんだって、他の誰でもなく直江さんなんだって、よく言ってたから、それでなんとなく気づいたんすけどね」 千秋は振り返った。 隆也は千秋を真摯に見つめている。
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