4人が本棚に入れています
本棚に追加
「仰木のこと、好きだったんですね」
隆也がそう言うと、千秋は小さく笑った。
「直江じゃあるまいし……」
しかし完全な否定はしない。好意を持っていたのは事実だ。それを否定はしない。
恋なんて優しいものでもなく、ただ安田長秀として上杉景虎を、千秋修平として仰木高耶を、愛していたのだろう。直江のそれとは別の形で。
仮にも400年、共に過ごしてきた存在だ。失って平静でいられるほど修羅でもなく、自分もまだ人であったのだと、あのときそう感じた。
それから少し、ほっとした。
一度は自身の死すら覚悟した自分が、彼の最期を見届けることができた。
そして彼らの出した答えに納得し、受け入れたのだ。
「ある意味じゃ、報われてんのか…」
愛の形は人それぞれで、少なくとも自分は、彼らに幸せになって欲しいと望んでいたのだと思う。
こんなんだから”いい人”呼ばわりされてしまうのだろうが。
「仰木は幸せだったと思いますよ」
隆也は言う。
「千秋さんたちに比べたら、付き合いなんか無いに等しい俺がいうのもなんですけど。あいつはあいつが望んだ通り、一番好きな人に看取られて逝ったんだから。あいつが精一杯生きたってわかってるから、直江さんもあの答えを選んだんでしょう?後悔はないんだって知ってるから、だから千秋さんも、納得したんじゃないんすか?」
知ったような口をきく。
それでも当たっているから仕方ない。
「……正直救われてる。お前に」
ため息混じりに千秋がそういうと、隆也はかすかに目を見開いた。
「別に400年も生きてきて、今更寂しいだのなんだの言いたかねぇけど、けっこう気が紛れんだよ、お前といると」
そう言っておいて、自分の言葉に後悔したのか、千秋は取り繕うように背中を向けて頭を掻いた。
「あ~…、今のは無しだ。忘れろ」
隆也は思わず吹き出した。
「笑うな!」
千秋は憤慨したが、隆也は嬉しくてたまらなかった。
「忘れません、絶対に」
何か言ってやろうと振り返った千秋を、隆也は抱きしめた。
こんなに素直な千秋修平の言葉を聞いたのは初めてだった。
二年間傍にいて、自分はどう思われているのか疑問があった。正直不安だった。
その不安を打ち砕く言葉に、思わず目頭が熱くなった。
「お、お前、まさか泣いてんじゃねえだろうな…ッ?!」
慌てたように顔をのぞき込もうとする千秋だが、隆也は離そうとしない。
「おい……」
千秋は困惑している。
(まいったな……)
最初のコメントを投稿しよう!