始まりの予感

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「好きです」 しばらくの沈黙の後、千秋の肩に顔を埋めたまま、隆也は言った。 「……。お前のそれは、飽きるほど聞いた」 「わかってます」 隆也の言葉を受け止めて、千秋は天を仰ぐと、静かに目を閉じた。 瞼の裏には、自分が生きてきた400年以上もの年月の全てが、余すことなく焼き付いている。 その中でも、一際深く焼き付く今生の軌跡には、安田長秀にとってもかけがえのない多くの人達の姿があった。 (……景虎) 桜に届かなかった彼の命は、消えゆくときにどんな風景を思い描いたのだろう。 最愛の人間の腕の中で、満天の星のもと逝った彼の目に、心に、自分はわずかでも存在しただろうか。 そして自分が逝くときは、誰の傍で、何を思うのか……。 「なあ、おまえさ……」 千秋は自分の肩に顔を埋めている青年に問いかける。 「………」 話しかけてはみたものの、次の言葉が出てこない。 聞いていいものかどうか、千秋も決めかねているようだ。 「別にいいですよ。忘れられないならそれで。俺がただ、好きなだけなんですから」 返ってきた隆也の言葉は、千秋の心の問いの答えになる。 千秋は隆也の背中をぽんぽんとたたいた。 「そうじゃなくてよ……」 別に忘れられないとかそういうことではなくて、自分が誰かを必要としていることに、なんとなく違和感があるだけ。 失った代わりを求めているわけじゃないが、正直いまさら、自分の中にこんな感情が生まれてくるとは思っていなかった千秋には、自分の中にあるこの感情を、自身ですら理解しがたかったのだ。
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