始まりの予感

5/5
前へ
/17ページ
次へ
「そばにいさせて欲しい」 と、隆也が千秋に告げたのは、あの年の桜が終わった頃だった。 「あんたを放っておけない」 『傍にいてくれ』ではなく、『居たい』のだという。 いったいどんな顔をしていたのだろう、自分は。 終わりかけの桜を見上げて、たぶん何かを思っていたのだろうけれど、そのとき自分が何を思っていたのかは、覚えていない。 そんな自分を(おそらく)見ていた隆也が、唐突に口にした言葉だった。 「お前に面倒みてもらわなきゃならねぇほど、年くってねえよ、俺は」 しばし沈黙した後、千秋はそう言ってはねのけた。 愛だの恋だの、そんなものは長く生きるには煩わしい。 景虎にせよ、直江にせよ、晴家にせよ、皆それぞれが想い人のために生きていたけれど、じゃあ、自分はなんのために換生を繰り返していたのだろうか。 大義名分なんて、最終的にはどうでもよかったのかもしれない。 最終的にはあいつらを、あいつらの行き着く先を見届けるために……。 じゃあ、それを見届けた今の自分は、なんのために生きているのか。 (……なんか、いま俺、ものすごくアイツっぽくねえか?) 自問自答してる自分に、かつての戦友を重ね見て、千秋は思わずため息を吐いた。 本当に、景虎や直江じゃあるまいし、ここでこんなこと考えてどうするつもりなのか…。 (「生きる意味」なんか考えて日々生きている人間が、この世界にいったいどれだけいるよ…) そもそも考えて意味を見いだせなかったら、生きることを放棄するか? それでも生きていくんだろう? 「生きてるじゃねえか、そもそも」 吐き捨てるように言い放った大きな独り言は、隆也の耳にも届いている。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加