27人が本棚に入れています
本棚に追加
『僕の名前は天草トオル。今日死にました。』
夜になると不気味なぐらい閑静で質素な住宅街をこの日は物珍しくサイレンが激しく鳴り響き、こだまする。数名の救命員に救急車へと運ばれていくトオルはぐったりとしていた。野次馬の人だかりを掻き分けトオルの名前を叫ぶ女学生。
『トオル…何で。返事しなさいよ。トオル。』
あぁうるさいなぁ。そんなに取り乱して俺が恥ずかしいだろ。
彼女の叫ぶ声が段々小さくなっていく。
騒がしいサイレンもフェードアウトしていった。
深い眠りから覚めたように自然と瞼が開いた。トオルは気付くと何も無いただ白く広いだけの平地に横になっていた。まるで全世界が破壊され、ただ独りそこに取り残されたように一人ポツンと。
『は?何処ここ?あれ?』
すぐに起き上がり辺りを見回すが何も無い。ただ白い床と白い空だけが果てまで続いているだけだった。戸惑いを隠せずにいたが冷静に事態を把握しようと試みた。
『え~と。まず僕は学校の帰り道で変なお婆さんに会って…それで頼まれて荷物を運んでたらお婆さんが怖い人達と知り合いで…その後は…』
「スパナで頭を殴られたんです。」
『それだっ。ありがとう。』
「いえいえ。」
『…ん?』
声のする方へすぐに視線を向けると前には白いスーツを来た金髪の男が立っていた。
『わっ!!』
驚くトオル。微笑みを崩さない男。
「天草トオル様ですね。お待ちしておりました。」
『だ、誰ですか?それにここは。』
「はい。私はトオル様をある場所へお連れすべく参りました。ここはその入り口でございます。」
暫しの沈黙。微笑む男。状況を把握しようと必死のトオル。
『あの~僕ってもしかしたら…死んじゃったんですかね?』
「そうです。」
どう考えても変だしうさんくさい世界に目眩がしたけど納得するしか無いらしい。だって目の前の男の人。頭の上に輪っかがあるんだもん。
最初のコメントを投稿しよう!