シン

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『えぇっ?』   エレベータを降りると豪華な日本庭園と優雅な洋風の箱庭が混ざったような滅茶苦茶な風景が何処までも続いていてその先には不自然にそびえ立つ高層ビルがあった。ただ一番に突っ込みたいのはこの全てに色が無く白いという事だった。草も道も空さえも白色で雲があるのかも解らないぐらいだった。トオルはこの驚きの連発で寿命が縮む思いだった。   「さぁ行きましょう。」   『は、はぁ』   足早に先を歩いていく彼に遅れずと歩き始めた。もう質問するのも疲れたから黙ってついて行こう。どうせ『何で白いんですか?』なんて聞いてみても「この世界に色の必要性はありません。」なんて答えるんだろうさ。   右に見えるのは獅子脅し。はたまた左に見えるのはミロのビィーナスの彫刻。酷く悪趣味なのは嫌でも良く解った。   「足元お気を付けください。」   『はい。』   気が付くと川が流れていて飛石を渡らなければならなかった。彼は慣れた足取りで軽快に飛んでゆく。慣れない僕は落ちないようにと慎重に一つ一つクリアしていった。つもりだった。   『おっととと。わっ!!』   「大丈夫ですか?」   金髪の彼が腕をしっかりと掴んでくれて間一髪だった。足を誰かに掴まれたような違和感があってバランスを崩し危うく川に落ちそうになったのだ。水面をよく見ると流れに沿ってキラキラと金色に光るものがいくつも見えた。白い世界に久しぶりの鮮やかな色だからかずっと見ていたいような暖かい光だった。いつまでも。いつまでも…。   「トオル様!!」   突然諭すように叫ぶ彼。   『えっ。』   飛石にちゃんと立たせられた。   「私の説明不足です。どうかお許しください。」   『それはいいけど…僕こそ注意されたのに落ちそうになってごめんなさい。』   「いえいえ。ご無事で何よりです。川に流れている光の粒。あれは【シン】という魂の欠片なんです。」   『じゃぁこれは【さんずの河】?』   「いえ違います。この川は趣味というか何というか。でも【シン】魂はその美しい光から人を惑わします。まだこちらに来てから間もないトオル様は尚更彼らに誘惑されやすいのです。」   『魂って人間の?』   「勿論人間もあります。ですが全ての命あるものにも魂はありますから魂はここに来て本来の【シン】になります。」   『そうなんだ。』   解ったように返事をしたけどよく解らなかった。
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