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会社で取引先の業者として時々顔を合わせる恭一に、今夜はディナーをごちそうになった。 恭一はフォークとナイフが苦手だと言って、お箸を頼んでいた。 「わたしにご馳走しても何もいいことないわよ」 恭一は笑って、転勤の辞令を受けたことを報告した。 「何年かしたらまた本社に戻れるとは思うんだけどね」 もう会えないような気がして、わたしはお気に入りのバーに恭一を連れて行った。 ここは、いままでつきあったどの男とも来たことがない。 窓から見る夜景がとてもお気に入りなのに、誰にも見せたくなかったのだ。 都会に出てきて、ひとりで雑誌を片手に訪れた店だった。 いつも気に入って座る席に案内されると、恭一は夜景の美しさに息をのんだ。 「きれいでしょ?」 「きれいだ」 恭一が夜景ではなく、わたしの顔をじっと見てそう言った。 少し驚いた。
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