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どうしてこんなに寂しいのか、わからない。
あなたは「君の初めてを誰にも渡したくなかったんだ」とあの時言った。
素敵な俳優に似た上司に求められる自分に、わたしは酔った。
でも、その時から、寂しくて、寂しくてたまらなくなった。
人肌のぬくもりや、舌をからめる口づけや、その他の、自分を求める全ての行動が、寂しいのを埋めてくれているような気になったのだ。
会社がお休みの日、あなたは連絡をくれない。
あなたは良い夫になり、よい父親になる。
いつか、その手は離れていってしまう。
わたしは置いていかれてしまう。
「愛しているよ」
家に帰っても、あなたは、あなたの帰りを待っている人にそう言うのかしら?
あなたは、眉間にしわを寄せた。
「君が、そんな事を言うコだとは思わなかったな」
困ったように、まるでわたしが全て悪いとでも言いたそうに、その人はわたしにそう言った。
「最近小遣いが減ったんだよ」と安めのホテルであなたは言った。
「もう会わないほうがいいな。潮時だ」
後姿が涙でかすむ前に、その人は去った。
わたしは、いい女になりたかった。
きれいになりたかった。
都合のいい女になりたかったわけじゃない。
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