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彼は幼いころから眼というものにあらがいがたい魅力を感じていた。
眼は口ほどに物を言うとは、彼にとって諺以上の意味を持っていた。
汚い人間の眼はよどみ、綺麗な人間の眼は澄んでいる。
彼にとって人とは「二つの眼をもった生き物」でしかなかった。
人を見るのではなく眼を見るのだ。
自分の異常性には自覚があったし、それを隠す分別もあったため、周囲に知られることはなかった。
彼が始めて眼球を手に入れたのは10歳の時。
近所の家の、よく吠えてうるさいことで有名な犬のものだった。
彼は犬をバットで殴りつけ、果物ナイフで眼球を抉り出した。
その時の充実感は言い知れぬものがあった。
今では犬の眼では満足できず、人の眼を欲している。
若い女の瞳は澄んでいて綺麗だ。
にごりなくこちらを見つめる瞳は彼をひきつけてやまない。
だから、奪う。
自分のものにする。
それだけだ。
最近では住人はしっかり警戒してしまい、前ほど容易くはいかなくなったが、彼にとってそれは瑣末なことだった。
自分をつけ回している者がいることも。
今までにも何度かつけられている気配はあったが、こちらからは姿すらとらえられなかった。
どうやら彼の邪魔をするつもりはないようだし、今では気にしないことにしている。
今日も夜の街で標的を定め、いただく。
さて、今日は誰にしよう。
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