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あの日から僕と文倉はそれとなくつるむようになっていった。
僕らの会話は暗黒に満ち溢れたものばかりで、とても高校生の男女のものだとはおもえなかったけれど。
彼女は僕に興味を抱いているようだし、僕も話相手がいるのは退屈せずにすんでよかった。
なんせ世界残酷物語や日本三大ミステリを読破している女子高生などそうそういるものではないし。
ただ、僕とつるんではいても、彼女の他人に対するカモフラージュは完璧だった。
「おはよう、文倉さん」
と声をかけられれば、
「おはよう」
とにっこり微笑み返す。
彼女の本性を知っている僕からすれば実に滑稽なことなのだが、彼女に微笑まれて真に受けている男子も多数いた。
「そんなに八方美人じゃ言い寄られてばかりなんじゃないか?」
と僕が問うと、
「誠心誠意をもってお断りさせてもらってるわ」
と、しれっとした様子で返してくる。
なんて女だ。
「彼らもかわいそうに」
こんな女に騙されてしまって。
「私は騙してなんかいないわ。彼らの勝手な思い込みよ」
「あれだけ外面作っておいてよくいうよ……」
「だからそれは」
彼女が反論しようとしたとき、廊下からの喧騒が聞こえてきた。
「廊下がさわがしいわ。何かしらね」
「この間の定期テストの結果の張り出しじゃないか?そろそろその時期だけど」
生徒たちの一喜一憂ぶりから判断するに、まず間違いないだろう。
「あぁ、なるほど。なら見にいくまでもないわね」
「たいした自信だね。まぁ実際君は毎回一位だけど」
「そういうあなたはどうなの?」
「僕は毎度のごとく平均ちょい上ってとこだろうね」
「可もなく不可もなく、つまらないわね。」
呆れを含んだ口調で文倉が呟く。
余計なお世話だ。
何か言い返そうと思い考えていたところ、廊下から聞こえた声が僕の思考をさえぎった。
「まじかよ!?一位が文倉じゃないなんて」
「え!?」
驚いて廊下へと飛び出していく文倉。
「嘘……」
張り出された成績表には、
一位 久遠 怜司
二位 文倉 雫
三位 ・・・
・ ・・・
・ ・・・
・ ・・・
と、あった。
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