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「遅かったじゃないか、綾瀬」
第二講義室からよく通る野太い声が聞こえる。
遠藤先生だ。
彼は国語の担当教師で、僕のいるCクラスと、Aクラスを受け持っている。
僕も遠藤先生も趣味は読書。
以前学校で応募した読書感想文コンクールで入賞して以来、彼は僕にやたらと面白い本はないか?と尋ねて来るようになった。
会うたびに聞かれるのも面倒なので、月に一回僕の面白いと思った本を先生に紹介することにしている。
今日はその日だったのだ。
すみません、すっかり忘れていました、と謝りつつ室内に入ると、遠藤先生以外にもう一人いることに気づいた。
「彼女は?」
「文倉雫。Aクラスだ。名前くらいは聞いたことがあるんじゃないか」
文倉雫の名前を知らない者はおそらくこの学年にはいないだろう。
その整った顔立ちに、流れるような腰までの黒髪。
学校を休みがちなわりにテストは常に学年首位。
全国模試でも一桁にはいっているという噂を聞いたことがある。
学校創立以来の優等生だと言われているくらいだ。
僕とは対照的に、非常に目立つ存在。
「初めまして、綾瀬君」
「あぁ、初めまして。君も遠藤先生に呼ばれたの?」
「ええの勧める本は面白いと遠藤先生が絶賛していたから、私もそれにあやかろうかと思って」
「それはちょっと過大評価かもしれないな。期待しないでほしい」
「期待してるわ」
そういって彼女は微笑んだ。
魅力的だが、同時にどこか違和感を覚えるような笑みだった。
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