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その違和感が何かを探ろうと頭をめぐらせていると、
「ほらほら、いつまで待たせる気だ」
と遠藤先生の声に遮られたので仕方なく思考を中断する。
「すみません。今日もってきたのは『パラノイア』です」
そういって袋から取り出した本を二人に見せる。
「あぁ、これはお前が賞をとったときの本じゃないか。どうして今更」
僕が理由を説明しようとすると、文倉が割って入った。
「最近加筆修正されて文庫化されたんですよ。その加筆部分の評価が高いそうなので、私も読んでみたいなと思っていた所です」
「文倉さん、こういうの読むんだ?」
「ええ、私はミステリとかホラーみたいなダークなものが好きなのよ」
「へぇ、そうなんだ」
さも意外そうにいってみせたものの、内心では、
(やはり。)
という印象だった。
話しているうちにさきほどの笑みの違和感の原因がつかめてきた。
作り物じみているのだ。
きっとあれは彼女本来の笑みではない。
明るい彼女は作り物で、きっと本当の彼女はその小説の嗜好に現れているのではないか。
つまり彼女は僕側の人間なのではないだろうか、と推測ではなく半ば確信に近いものを感じ始めていた。
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