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グラントは対戦によって細かい擦り傷や切り傷が身体についてしまったラーシャを素早く医務室へと運んでいた。
カツン…カツン…と彼のほぼ正面からポアスティング族の男が近づいて来た。
グラント:「…!」
グラントはその姿を見て眉間に小さな皺が寄る。
そのポアスティング族の男の身体から香ってくるにおいはラスカと同じにおいだった。
ラスカと同じにおいをさせていた男は彼女の金魚のふんのような存在の『クレー』だった。
クレー:「………」
クレーが瞳に宿す光りは、ラスカが側にいた時のように『おどおど』とした雰囲気はなかった。
彼は目の前にいたグラントを冷たい眼差しを向けていた。
クレーはグラントの少し前に立つと、じっと真っ直ぐに彼を睨むように見つめていた。
グラント:「………」
この家(ホーム)での攻撃魔法の使用は許されていなかったが、グラントは警戒して間合いを取るように立ち止まる。
グラントはクレーに対して話しかける理由がなかったので、彼が口を開くのを待つことにした。
クレー:「一一何故、貴様はラスカさんの邪魔をした」
クレーは元々、グラントが口を開くのを待っていなかったようで立ち止まって直ぐに刺々しい口調で言葉を放った。
グラントはその言葉を聞いて声を出す事なく笑う。
グラント:「あれをあんたは邪魔をしたと見るのかよ?一一寂しい男だな」
クレー:「フン…あの対戦は確実にラスカさんの勝利を収めれるものだったのに…」
グラント:「…勝利を収める、か。クレー…だったか?今回の対戦はあいつが自分の疑いを晴らすためのものだった一一無駄に命を奪う理由がないって」
クレーはその言葉に笑う。
クレー:「一一ラスカさんが他の種族と対戦するのは俺が知る限り初めてだ。だから…」
グラント:「………ったく…お前はラスカさん、ラスカさんってうるせーな」
グラントは抱えたラーシャを見下ろす。
グラント:「クレー、あの人がお前の何かだなんて知りたくもないが…もう少し『色々と』成長しろよな」
グラントはそういうと、再び歩き始める。
クレーはグラントとすれ違うと、後ろを振り向くことなく何事もなかったように歩き去る。
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