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グラントが再び医務室に向かって歩いていると、クレーと同じように向こうから同族のザイル族の男がやってきた。
その男はグラントとラーシャを見つけると、手を軽く上げて左右に振る。
?:「よぉ、超かっこよかったぜー」
そう言いながらニタニタと笑う。グラントはその男を見てため息を吐く。
グラント:「一一ったく…お前か、『ラミセルド』。何の用だ?」
ラミセルドは片足の爪先を床に立てて、両腕を後頭部に当てて身体を左右に揺らす。
ラミセルド:「なんだよー、つれないことを言うなよ。同族だろ?」
ラミセルドの言葉にグラントが苦笑する。
グラント:「同族、か…よく言うぜ。自分からその同族の馴れ合いや交流を拒否りまくってるくせによ」
ラミセルドは「カカカカ」と笑う。
ラミセルド:「まぁな。馴れ合いはともかくとして、交流が好かないんだが一一一応、ザイル族だからな。知ってる奴を心配するのは当たり前だろ」
グラント:「…相変わらずだな、ラミセルド」
グラントはラミセルドが仲間を持たないまま自由に生きている理由を理解する貴重な人物だった。
二人はこの世界に引き込まれる前に、友人とはいかないがそれなりに仲が良かった。
ラミセルドはグラントが抱えていたラーシャを見る。
ラミセルド:「…大丈夫なのか?」
グラント:「ああ。気を失っているだけだ」
ラミセルドはラーシャの顔を覗き込む。グラントは自分の馴れ合う者に近づく異性を思わず睨みつけてしまう。
それがラミセルドであっても。ラミセルドはちらっとグラントを見てニタニタと笑う。
ラミセルド:「女遊びが酷かったお前が…とうとう、一人の女に骨抜きにされちまいやがって…」
ラミセルドは最後、神妙な面持ちをして、そう呟くと彼の肩をぽんぽんと軽く叩く。
軽く叩くと彼はグラントの耳元で囁くように呟く。
ラミセルド:「一一俺は俺の道を進んで行く。お前はお前だけの道を真っ直ぐに貫き通して行け。…俺はもう一一お前に守られるような存在になるわけにはいかないんだからよ」
ラミセルドはグラントが自分を何かしら気遣っていたのを知っていた。
自分が階級なしで彼は中級者。これからは誰かの心配をするわけにはいかないのに、愛する人を守り抜くという決意をした者の足枷になるわけにはいかなかった。
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