第五章

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ウルフハウンド族の素早さは階級なしの頃から見て来たレパート族にとって、驚くというのは無用の長物だった。 それを知っていたからこそ、この攻撃魔法を選択し、彼はそこから動かない。 そしてゼファルが焔の球に集中しているからこそ、このレパート族は此処から動かない。 レパート族①:「(一一好きなだけ動くといいよ…キキキ。あんたが動く度に俺の体毛が…)」 レパート族は左手を突き出したまま、口をすぼめてその腕に息を吹き掛けていた。 放たれる焔の球とは別に風に乗って自然と纏わり付く一本の自分の毛達。 その毛は『次の段階』へと導く魔法の道標(みちしるべ)。 レパート族①:「(あと…もうちょっと…かな?、我等一族の毛質を侮ると痛い目見るんだなー、これが)」 レパート族は対戦相手の魔法や戦略を盗むのは種族の得意戦略だった。 それをカモフラージュするかのようにゼファルを狙い続け、焔の球を避け続けるゼファル。そして何かを狙うレパート族。 海の上で二人の探り合いが水面下で行われていた。 ゼファル:「(一一全ては一瞬で終わる。あのレパート族ごときで俺は負けるはずがない…。シンザスやティニーの為…負けるわけにはいかない)」 ゼファルは口に出すことはないが、彼の中に宿る想いはクレイフィンにも負けない強さがある。 …ぴとっ…とまたレパート族の一本の毛がゼファルの身体に引っ付く。 引っ付いた毛は持ち主の意思が断たない限り、密着し続ける。 ノンス:「(一一種族の特質を存分に使わなきゃ…あんたの相棒は…勝てるはずがない)」 ノンスはそう思いながらシンザスを睨むように見下ろす。 シンザス:「(!、…なんだ?…殺気…なのか?)」 シンザスは妙な気配は察知してゼファルにしがみついたままの状態で辺りを見回す。 シンザス:「(あれは一一)」 そこにはほくそ笑むノンスがいた。 その表情から『絶対に勝てる自信に満ち溢れている』のが分かった。 シンザス:「(…この状況であの表情…まだ…何かあるのか…?)」 ゼファルは難無く焔の球達を避け続けていた。彼自身、焔の球の速さや動きに慣れてしまい…次の攻撃が来ないので逆に不安が襲い掛かる。 シンザスはノンスの表情が妙に気にかかりながらも、彼にしがみついていることしか出来なかった。
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