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< ぽろぽろ… >
妖精はパートナーの姿を見て大粒の涙を流す。
妖精:「…どうして…?、どうして貴方はこうまでして一一あたしと『×××』になってくれないのよ…そしたら…」
若い男は痛む身体を彼女の方に向けて微笑む。
若い男:「一一フォルが俺の相棒だからさ。…『×××』になれば…もう君に会えなくなる」
妖精:「…確かに『×××』になれば貴方とこうして一一」
当代・妖精王は妖精と若い男を少し離れた場所から見つめる。
妖精王:「…それがこの世界の定めだ。俺や先代もその『×××』を決断した。だからこそ強くなる。一一何かの犠牲があればこそ、俺達は強くなるんだ」
妖精と若い男は当代・妖精王をバッと見た。
若い男:「妖精王…俺は『×××』にならなくても…強くなれるって信じてるんですよ」
当代・妖精王は若い男の言葉に笑う。
妖精王:「強くなれると信じてる…か。一一お前達はまだまだ青い。そんなのに負ける『上級』どもは…まだまだという事だな」
当代・妖精王はそういうと、シュンッと姿を消す。
< フワッ… >
妖精の鼻先に何か風が横切った。そう思った瞬間、視界に赤い液体が飛び散るのが見える。
妖精:「っっっっっ!!」
当代・妖精王が若い男の胸のど真ん中に右腕が貫通している。妖精は両手で口を押さえながら叫ぶ。
妖精:「いやぁぁぁぁぁっ、ミハルっ、ミハル~っ」
< ずる… >
当代・妖精王は顔色を変えずに若い男から腕を引き抜く。ピッと腕を払って付いた血を飛ばす。
妖精王:「…これでまた召喚する種族の数が増えたな」
妖精:「あぁ…そんな…ねぇ…ミハル…ミハルってば…」
妖精はか細くて震える声で動かなくなったパートナーの身体を揺する。やがて彼の身体はボロボロになって消えていく。
妖精:「ミハル…っ」
妖精は若い男の名前を口にし、茫然(ぼうぜん)とする。そんな彼女の様子を見て当代・妖精王は言い放つ。
妖精王:「『フォルメント』、お前は優秀な妖精だ。また新しいパートナーを早々に見繕(みつくろ)ってやる。一一今回のパートナーも出来損ないだったな」
妖精:「っ!!!」
妖精は『出来損ない』という言葉にズキンと胸が痛む。彼女は唇を噛み締めて玉座の間から駆け出していく。
妖精王:「…また俺の勝ちだ。いつになったら俺を超える者が現れるのだろうか…」
当代・妖精王はあの椅子に再び座って幅広くて浅いため池を今日も何事もなかったように見下ろしていた。
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