イカロス症候群

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 正直、僕にはこの勉強に意味があるとは思えなかったが、就職活動をして社会に羽ばたくのも気が引けた。親も、大学進学を強く望んでいたし、僕には特に、何をやりたい、とか、どうしたい、という希望がなかった。入れるところで、と適当に大学を選び、学部を選択し、学科を選ぶ。そこでそこそこの成績が取れていれば、親も満足するだろうし大卒の経歴はつく。  勉強は楽しいと思えなかった。将来の社会人生活では役に立つと思えない、公式や数字の羅列、カタカナ語を詰め込むだけ詰め込むと、頭痛と眩暈に襲われる。そのお陰もあってか模試では成績が上がり始め、三年生初の中間考査では、自身最高合計点を記録した。  僕は久しぶりに屋上へ出た。蝉が鳴き始める初夏、眩しい太陽の下に、突っ込む行方をなくした両手を持て余す、黒髪の少女を探しに。 「よっ」  彼女はあぐらをかいて座っていた。夏服の白いブラウスが、日の光に反射して眩しい。僕は久方ぶりに心から笑いながら、彼女の傍へと歩み寄る。革靴の底を通して伝わるコンクリートの床が、熱い。  ――日焼けするよ。  例年より早い梅雨明けにより、各地では夏日が観測され始めていた。今まで白い肌をしていた彼女は、早くも日焼けし始めていた。
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