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「――言えなかったんだよ。試験日に遅刻して出来なかった、なんて」
くつくつと、声を押し殺そうと努力しながら、彼女は快活に笑った。僕は机に頬杖をついて、窓の向こうに広がる、夜の駅前の繁華街を見つめる。高校の頃は見られなかった、きらびやかな景色だ。
「やっぱり、アンタはアンタだ」
我慢出来なくなったのか、彼女は声を上げて笑い始めた。周囲に他の予備校生がいないことだけが救いで、僕は惨めだった。滑り止めだった大学もことごとく落ちて、親を失望させるし、高校での二年間の怠惰を思い知った。時間にルーズだ、とは友人からも言われていた通りで、僕は試験日に、見事に実証してしまった訳だ。
「教えようか」
無言のまま、僕はふて腐れて窓の外を見据える。機嫌を損ねたと思ったのか、彼女は笑いで殺されそうになりながら、掠れた声で不敵に言った。
「――何を?」
いちおう、予備校の定期模試では、僕は彼女より上の成績をキープしている。高校三年間の怠惰と、二年間の怠惰には大差がある。彼女に教えてもらうことなんて、勉強ではあるはずがない。
「アンタがフラれた理由」
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