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ぐさり、と音を立てて言葉が胸に突き刺さった。あの失恋は、今でこそ大したことがない、と言うことも出来たし、あれだけで自殺しようと考えるなんて、とも思う。けれど、僕は未だに、恋には臆病だった。
軽く両耳に手を添えて、僕は街並みのネオンを見つめたままで言う。
「――聞いたら死にそうな気がする」
彼女は再び笑った。今度は、控えめな笑い方だった。
「屋上で見たアンタは、腑抜けて頼りない奴だったから」
両耳をしっかりと塞いで、自分の声を張り上げて聞こえないようにする。僕の足掻きの横で、彼女は静かな横顔のまま、頬杖をついて窓の外を見つめている。頬杖をついたときの反動で、シャープペンシルがノートの上を転がる。
「今、ここにいるアンタが、アタシは好き」
彼女は未だに、僕のことを名前で呼ばない。僕も特に、彼女を名前で呼ぶことはない。屋上で語り合った頃のまま、お互いに在り続けようとしていたけれど、変わらないことは不可能だ。万物は転変し、世界は回る。
僕の両手は耳を離れた。ぽかんとして、彼女を見る。彼女もこちらを振り向いて、僕を見る。
「アタシとアンタは、あの場所で脱皮して、ここにいる」
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