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屋上で別離したとき、僕と彼女はイカロスになった。父のダイダロスに連れられて、囚われの場所から脱出し、空の旅を楽しんで墜落した、哀れな少年に。
「それにアンタは、今もモヤシみたいだし」
僕と彼女は、たぶん、滑空を楽しみ、昇ろうとしている状態なのだろう。上へ、上へ、もっと楽しい場所を目指して、飛んでいる最中だ。だけれど、僕と彼女は知っている。僕らはイカロスではない。太陽を目指し続ければ、いつか墜落するだけだ、と。
僕は墜落したのかも知れない、と思った。彼女が口にした言葉と、口にする言葉は、全てが虚構のように思えた。
「アタシもアンタも、ゲンジツを踏んでる」
優しさを帯びた彼女の視線は、そっと夜へと吸い込まれた。僕はしばらく自失して、自習室の様子を見に来た講師の存在で、やっと我に返る。間の抜けた顔をしていただろう、と思って咳払いしてから、白紙のノートを睨みつけた。
「――ともだち、として?」
聞き返す代わりに、彼女が振り向く。確信犯の視線だ。僕が恋に臆病で、慣れていないことを知っている。僕の友人たち以上に。
「――だから、友達として、好きって言った?」
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