イカロス症候群

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 空を飛ぼう。  秋晴れのある日、僕はそう決意した。産まれてから十七年、一年後には受験シーズンを控えた、高校二年の中秋。僕は全てに疲れきっていたし、誰かを信用することも出来なくなっていた。励ましは耳を素通りし、憂鬱が胸を支配する。鉛を飲み込んだように沈み込む気分を高揚させるには、空を飛ぶくらいの、或いは人生を終わらせるくらいの、決意と手段しかないように思われた。  屋上に続く階段を一気に駆け上り、扉を蹴破る勢いで外に飛び出す。そのままの勢いでフェンスに突撃しようとして、僕の足は止まった。落下防止フェンスに寄り掛かり、特異なものを見るような視線を投げる、一人の少女と目が合った。  僕と少女の間を、赤トンボが一匹、流れるように飛んでいった。
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