イカロス症候群

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 彼女はからからと笑った。豪快で快活な、従来の女の子に、少なくとも、たおやかそうな女の子に、あるまじき笑い方だった。でも、潔いほど気持ちいい。その笑いを聞いていると、それまでもやもやと蟠っていた気持ちが、自然とほぐれていく。 「カワイイ女の子の一人や二人、どこにだって転がってるだろ?」  例えば、目の前とか――彼女は冗談めかして言って、また快活に笑った。ブレザーのポケットに両手を突っ込んで、屋上からどこか遠くを見つめる姿勢の彼女は、確かに今なら、綺麗に見えた。  秋晴れの空に黒のセミロングの輪郭が切り取られ、さらさらと流れる濡れ羽色は、僕がいるクラスの女子生徒には珍しいタイプだ。黒髪は真面目の象徴、というのが彼女らの基準だとするなら、彼女は真面目な部類なのかも知れない。スカートも短くしていないし、ソックスも学校指定の色だった。髪に合わせた黒のローファーズまでを眺め尽くして、僕は慌てて首を振った。  ――ていうか、授業時間だろ? 「うん」
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