イカロス症候群

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 詳しい説明は出来なかったけれど、彼女は僕の適当な説で得心したらしい。何やら不敵に笑って、足元を見つめる。  曇天の下は肌寒く、彼女はブレザーの上にダッフルコートを羽織り、僕も上着を着ていた。この間のように授業時間ではなく、放課後で、周囲は薄暗くなりつつある。  ――僕、おかしいこと言った?  尋ねると、彼女は首を振りながら、それでも笑っていた。含みのある笑みだったものの、僕にはそれが何を意味しているのか、全く分からなかった。 「昔の人は、それで納得したんだろうな」  自分に相応しい地位でいることが、人々にとって適切なことであるとしたら、好きでもないことを続けるのは、不適切なのだろう。僕は先月の中間考査で、大学進学は絶望的だと確信した。好きでもないことが伸びるはずもない。イカロスは飛ぶのが楽しかったから、太陽の近くまで昇ってしまった。  好きでもないのに強要されるのは、どうなのだろう。何となく周りに合わせて進学し、勉強し、評定の数字だけを気にして、教師の顔色を窺う。水面下で起きる陰湿ないじめに目を瞑り、多数派に参加して身を守ろうとする。そんな環境にい続けるのは、確かに忍耐のいる事実で、そういうことに力を向けられる人間の大半は、勉強を二の次だと考えている部類なのだろう。
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