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―――今日は何てついていないんだ。
岡崎淕(おかざきりく)は溜め息を漏らして先程まであった出来事を振り返った。
よく晴れた3月の後旬。淕は学年が進級して新しいクラスになる前にどうしてもやらねければ、と決めていた事があった。
───同じクラスで委員長を勤めていた高倉秋梛(たかくらあきな)に告白する事だった。
彼女を好きになったきっかけはほんの些細な事だった。
彼女はいわゆる“委員長気質”な女の子で、成績も良くスポーツ万能。非の打ち所のない優等生で性格も明るく、友達も多い。こんな彼女に惹かれないワケがなかった。
最初は憧れていた淕が彼女を恋愛の対象として見始めたのは彼女には努力ではカバー出来ない程に苦手なモノがあったという事を知ってからだった。
彼女はある時に行われた家庭科の調理実習で大変な失敗をしてしまったらしく、その罰として調理実習で作るハズだったモノを一人で作るようにと言われてしまったと噂で聞いた。
家庭科の授業が終わってもなかなか戻らない彼女に淕が何気なく調理室に顔を出すと彼女は真剣な顔で一生懸命に調理をしていた。
───その真剣な凛々しさに淕の心は奪われた。
でもよくよく彼女の様子を見てみると失敗したと思われる食物が皿に盛られていて、淕は彼女が料理が苦手なんだという事に気付いた。
苦手なモノに必死に取り組む彼女の姿に感銘を受けた淕はすかさず彼女を手伝ってしまっていた。
『ありがと…岡崎君って優しいね?』
そう言われて淕は凄く嬉しくなったのを今でも覚えている。
それを機に彼女と友達関係を築いていたのだが、やはり淕はこの気持ちを伝えたいと思っていた。
しかし、彼女は自分よりも優秀で皆の憧れの的の存在で淕はこんな自分の気持ちは伝えられないと思っていたのだ。
だから自分で決めたのだ。
1年間、彼女を想い続けれたら告白しよう…と。
だから今日、覚悟を決めて彼女を呼び出して上手くいったらデートでもしようと思っていたのだが…敢えなく玉砕。
“ごめん、あたしね?恋愛には興味ないの…それに岡崎君の事は友達にしか見えない”
彼女に告げられた言葉はグサグサと淕に突き刺さった。
せっかく買った遊園地のチケットも台無しとなり、淕は彼女と別れて、フラフラと帰路に着いていた。
───そこまではまだ普通だったのだ。
いきなり“この人チカンです!”と叫ばれるまでは。
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