雨の匂いは幸せの香り

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ミサはしばらく自分に鳴らされたベルだと気付かなかった。 田んぼに落ちそうなくらい端を歩いていたのだ。 『傘引きずったら穴あいちゃうよー!』 ハッとして振り返ると、クラスメートのタクヤがいた。 クラスメートであり、ミサが少し気になっている人でもあった。 普段からよく話す相手だったが、 だからこそ今さら告白するわけにもいかず、ミサは戸惑っていた。 『何か暗いね?どうしたの?』 タクヤはそんなミサにはおかまいなしに話しかけてくる。 『…別に何もないよ!け…今朝、土砂降りだったのに自転車で来てたの?』 ごまかすかのように、ミサは逆にたずねた。 『寝坊しちゃってさ。時間なくて仕方なく自転車で来たんだ。学ランまだ乾いてないよー。』 言われてみれば、タクヤの学ランは背中がまだうっすらと濡れていた。
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