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しばらくして
温かな風が頬を撫でた。
「愁斗。」
振り返ると
柔らかな笑みを浮かべた少年が
いつものように立っている。
「春…」
「卒業おめでとう、愁。」
「ありがとう。春もな。」
そう言うと
春は少し困った笑いを浮かべた。
「僕、卒業証書もらってないけどね。」
「…俺がやるよ。」
舞ってきた桜の花びらを
一枚捕まえて、
春の前にしっかり立った。
「卒業証書授与。
水嶋春樹殿、卒業おめでとう。」
捕まえた花びらを
春に差し出す。
春は笑って
それを両手で受けとった。
「ずいぶん小さな証書だね。」
「中身は大きいから。」
「あははっ、そうだね。
ありがとう、愁。」
可笑しいのか、嬉しいのか、
春は笑いながら
花びらをひらひらと
太陽にさらした。
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