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本社ビルのエレベーターは、予想していたよりも簡単に最上階手前まで僕を運んでくれた。
エレベーターを降りて、すぐ横の階段を上る。
足取りは重く、気持ちだけが先行する。
ふと、自分のしていることの意味が分からなくなる。
何のために来たのか、何をしたいのか、何が出来るのか。
ニュアンスの違う、同じ意味を持つ問いばかりが頭に浮かび、そして消えていく。
分かってる。それは、僕が望んだことだから。
「・・・助けに、来たんだ」
答えはそれだけで十分だった。
やかましく質問を繰り返す心を無視して、最上階のエントランスに立つ。
殴れば壊れてしまうほど薄いドアを開ける。
軋みながら開いたドアの奥は、暁前の闇を切り取ったかのような暗さだった。
「・・・鉄華、直唯」
呼びかけは反響し、そして消えた。
かわりに響く、鎖の擦れる音と、耳障りな声。
「いや、いやいや。近衛隊も数分で撃破か。なかなかの腕前だ」
「希はどこだ」
「それよりも話をしようじゃないか。せっかく久々の親子水入らずだ。世間話でも――」
その言葉の続きは、聞きたくもないし、聞くこともなかった。
「希はどこだって聞いてるんだ」
殴りつけた部屋の壁は、へこむを通り越して崩れていた。力の配分がうまくいかないのが自分でも分かる。それは今の自分を動かす激情のせいか、それとも。
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