序章 平和な時間

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「あら、もう行っちゃうの?」 立ち上がっクロを見て、炎那は少し残念そうな声を上げる。 さしずめ、おもちゃを取り上げられた子供といったところか、ぶーぶーと駄々をこねる炎那にクロは苦笑で答えた。 「クロ、気張って行ってこい」 不満顔の炎那を余所に、炎髪の男性は威厳を帯びたクロはそれに笑顔で答え、リリスを連れだって部屋を出る。 「あ、ちょっとまっ――」 まだ朝食をつついていた戀華が何かを叫んでいたが、クロは置いて行くことに決めたようだ。 クロに迷う動作が見れないあたり、これが始めてではなさそうだ。 「はぁ……やっぱりあの部屋は苦手です。 いっそのこと、あのムカつく天使と白い十字架をぶっ壊してやりましょうかね」 部屋から出たリリスが、解放されたとばかりに愚痴を漏らす。 「まぁ、そう言うなよ……まぁ、俺もアレを見て祈ろうという気分にはならないけど」 リリスが言っている天使と十字架とは、食堂の壁に付いている彫刻のことだろう。 何でも、自分の為に犠牲になってくれた食材と、恩恵を与えてくれる神様に祈る為だとか。
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