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彼の有名な宮殿を思わせるバロック式の建物。
長年、その華やかさから宝石の宮殿と呼ばれ続けたそれは、燃え盛る灼熱の炎によって夜を鈍く照らしている。
その宮殿の最深部、一際装飾の美しい部屋で、一人の女性がひざまついていた。
女性の周りには、剣を抜いた3人の男が立っている。
女性は赤ん坊を抱いていた。
顔がまだ皺くちゃなところを見ると、生後まだ間もないようだ。
赤ん坊は泣いている、声もなく鳴咽もない。
ただ燃え盛る我が家を背景に窶れた母の姿を見て泣いていた。
時間だとばかりに3人の剣が振り上げられる。
同時に、赤ん坊を漆黒の六芒星が包む。
3人はそれに動じる様子はない。
ただ無情に、女性を見つめていた。
女性ははかなく笑い、呟く。
「さようなら、私の宝物。
ずっと元気で、幸せでありますように」
六芒星は一際強く輝くと遥か遠くの地へと消えた。
同時に剣が振り下ろされる。
鮮血と共に黒く美しい命は散った。
最後まで女性は赤ん坊の母親だった。
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