序章 平和な時間

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初夏の光が差し込む書院造りの簡素な部屋。 八畳ほどのある部屋の真ん中では、一人の青年が小さな寝息をかいている。 障子から漏れる日差しが顔を照らしているのにも係わらず、青年が起きる気配はない。 「失礼します」 一人の女性が障子を開け、部屋へと入る。 彼女の髪は、月のない夜のように黒く、真っすぐ腰まで伸びている。 顔の方もほど好く整っていて、この部屋を背景におくと、大和撫子と称するのにピッタリだろう。 さらに、彼女着ている服はフリルの付いた給仕服……俗に言うメイド服で、彼女の職業が一発で伺える。 彼女は青年の枕元まで近付くと、そこに腰を下ろす。 「クロ様、朝ですよ。 起きやがって下さい」 彼女は、黒と呼んだ青年の耳元でそっと囁く。 その顔は幸せ満開、まるで視線で愛でるかのように、青年の顔をじっと見る。 「……ス-……ス-」 しかし、クロは起きるどころか寝返りを打つ気配さえ見せない。 「むぅ、クロ様が起きてくれないです。 このままではリリスが奥方様に怒られてしまいます」 リリスは態と大きな声を出して、黒の様子を伺う。 「……ス-……ス-」 が、クロの様子は先程と変わらず、こちらも幸せそうな顔で寝続ける。 「……わかりました。 こうなったら、私とのあつ~い接吻で起きてもらいましょう」
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