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すり減ったローファーの踵で、あなたのスニーカーを踏んづけてみたいんだ。
いつかのあたしのささやかな願望は、とうとう叶わない。
卒業式。
今日であなたと、
無条件に会える世界にさよなら。
朝のあいさつも。
廊下で交わす視線も。
やたら目立つ後ろ姿も。
大きな手の中の本に落とす視線も。
ページをめくる指先も。
昼休みに眠るまつげも。
無邪気な笑顔とその裏側も。
飴玉を転がしたときの目も。
涼しげなピアスの空洞も。
真剣そうなまばたきも。
右巻きのつむじも。
整った字体も。
走り方や歩き方、前髪の長さや揺れ方、言葉の選び方、知識の使い方、爪の丸みに、シルバーリング。
それから、あたしの名前を呼ぶ声。不機嫌そうな声。嬉しそうな声。
ひとつひとつを無限に思い出せるから、いつ頃あたしは元通りになるのか、見当もつかない。
明日になったらあたしは、歩き方すら思い出せずに、そのまま総て忘れてしまうのかも知れない。
なんてね。そしてそんなはずがないのも解ってるんだ。
明日からの世界には、一人で歩いているとき、バスに乗っているとき、眠りに落ちるとき……
想う何かにいったい意味は見い出せるのだろうか。
とか、ほらねまた、自然とあなたの文体を真似してる。
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