チョコレートスニーカー

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楽しいこともあった。 くるしい日々だってもちろん。 泣いたり、笑ったりもしたし。 この三年間は多くを学んだ三年間でした。今では胸を張って言えます。なんて清々しい顔をしたクラスメイトもいれば…… あたしのように後悔をなぞって、指が震えるひとだっているんです。 あたし以外にもいるのかどうかは、まあ、疑問だけど。 ーー担任の声が、スピーカーから轟く。 あたしは叶わないものばかり追いかけて、結構な時間を費やしてしまいました。 時には期末考査と恋煩いなんかがいっぺんにやってきたりして、そりゃもう迷惑しましたし。 部活に身が入らず、鬱々とした梅雨だって過ごしてきたし。 夏、プールの水なんかじゃ全然冷えてくれない頭を抱えたものです。 秋には、学祭の忙しさで気持ちを紛らすため抱えた仕事は数知れず……。 ーー凛とした、あなたの声は強いんだ。 唐突に、あたしの耳が捉えたのは、この三年間最も意識してきた文字列だった。 他クラスの担任が読み上げたのはまさに、普遍的で、それでいて、あたしの世界では絶対的な…… ーーあの人の名前。 続いてあたしの右耳が捉えたのは、よく通る、まっすぐでやさしい、紛れもないその人の声。 クラス代表、だったんだ。 声を聞くまでそんなの知らなかったから、見事にふいをつかれてしまった。 舞台の上にやっと見えたその姿には、やっぱり見惚れてしまって…… 後戻りできない事にも、取り返しがつかないことにも、きゅんと胸を打たれて涙が出そうになる。
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