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最後のホームルームのあと、賑やかだった教室はやがて静かになる。
時計は廻り、気が付けばあたし一人が取り残されていた。
みんなはもう歩き出しているのに、あたしはといえば過去に捕らわれるばかりで、ここから動き出せずにいた。
ほのかに香る夏の匂いから、ほんのささいな日常の出来事さえも。
ちくりと胸が痛むけれど、
全部、
さよならをしなくちゃいけない。
あなたは、あたしの名前を覚えていてくれますか?
何年かあとにもし再会することがあっても、
あなたにとってのあたしは、
記憶の片隅にすらいない、
ただの他人になってしまうの?
ーー赤い陽の射す教室に残された、真っ赤な思い出。
いずれ世界は燃えて、灰と化して、この場所も無くなる。
だからこの赤い涙も、
明日になれば透明に変わり、
あたしはこの場所にいたことをすっかりと忘れる。
そうなれば、どんなに楽だろう。
でも、それでいいのかな。
永遠にこの気持ちに蓋をして、未来のあたしはたぶん……
後悔する。
きれいにされた黒板は、今のあたしの心模様によく似ていた。
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