花火。

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海岸がこんなに人で埋まるなんて、いくら夏でも初めて見た。 ぼんやりとそんなことを考えながら、ママの手をしっかりと掴んでその背中に付いて行った。 右手側には、真っ黒い海へと続く砂浜の上に腰を下ろす人々、 左手側には、それと相反して出店のランプが眩しい。 普段着慣れている訳でもない浴衣の裾を裁きながら、ただ黙って懸命にママに付いて行った。 出店の列が途絶えると、徐々に人だかりもなくなり、 そこから暫く歩くと、人々の声もかなり遠くなる。 そんな静かな砂浜で、ママは腰を下ろした。 後について、その隣に腰を下ろすと パーン 夏の夜空が燃えるのを見た。 星ひとつない、濃紺の夜空に、 一瞬、眩しいほどの光を発したかと思うと、その花は静かに散っていった。 跡形もなく消えると、また新しい花が、咲いては滑り落ちた。
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