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「ゆぅみ、あれが花火だよ」
闇に消えていく花火のように、すっかりわたしの眼は花火に吸い込まれていたが、
隣からふとママの声がして、その顔を見た。
けれど、その言葉は確かにわたしに向けられていたけれど、ママの視線もまた海の上の空の花のものだった。
わたしはその目を戻さなかった。
花火に照らされたママの顔が、美しいと思った。
いつもより少し見開いた眼と、優しく微笑む口元と、
例えその視線の先が、もう戻らない過去のものであったとしても、わたしはそれを、美しいと思った。
花火は華々しく咲いては、跡形もなく闇の中に消えていく。
わたしはママの手を握った。
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