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石畳の道路の上を大勢の人間が歩いている。それもそうだ。今は昼間。人間が活動する時間。
大勢の人間の中に一人だけ風変わりな格好をした男がいた。全身黒で統一された服装に帽子と黒の皮手袋をしている。極端に太陽を嫌っているような格好をしているこの男は人間ではない。
吸血鬼だ。
吸血鬼と言ってもむやみやたらに人間の血を吸っている訳ではない。ちゃんと人間と同じ食事も出来る。ただ、野菜を一切摂取しないのは人間と違うだろう。
吸血鬼の男は人込みから抜け出して建物の壁に寄り掛かりポケットから小瓶を取り出して、中の“モノ”を飲もうとした。しかし、すぐ近くで見知らぬ少年が物欲しそうな眼差しで男を見つめていた。この少年は紛れも無く人間だ。男には少年の鼓動が聞こえている。吸血鬼は全員心臓が動いていないため鼓動の有無で人間と吸血鬼を判断しているのだ。
男は少年に構わず小瓶の“中身”を飲んだ。中身はもちろん血。一滴も零さず飲むと小瓶をポケットに戻して、別のポケットから硬貨を数枚取り出し、子供に差し出した。子供は硬貨を受け取ると笑いながら走り去っていった。
「……惜しいことしたか」
走り去る少年の後ろ姿を見て吸血鬼の男は呟いた。
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