白銀王

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男は目の前を歩いていく人込みをぼんやり眺めた。今日彼がわざわざ昼間に街中を出歩いているのは最近吸血鬼の仲間達で飼っている家畜が襲われる事件が多発しているため、その調査を行っているのだ。しかし、手掛かりは今のところ無し。家畜の血の匂いが微かに残っていれば後を追うことくらい簡単なのだが。 男が諦めかけた時、目の前を羊の血の匂いを漂わせたヒトが通り過ぎていった。匂いは人間の嗅覚ではわからないくらい薄いが、吸血鬼には充分な濃さだ。 男は早速匂いを辿って尾行を始めた。匂いを辿ればたとえ相手が見えなくても追い掛けることが出来る。 匂いは人込みから離れていき、賑やかな街の中心部からほとんど人が住まない廃墟街へと続いていく。 石造りの建物の崩れた壁に隠れて男は羊の血の匂いを漂わせた標的を見ていた。 標的は二十歳前後の若い銀髪の青年。全身から羊の血の匂いがする。 「血生臭いな」 吸血鬼の男は隠れたまま話し掛けた。しかし、銀髪の青年は沈黙を保っている。 「な、なんとか言ったらどうだ?」 吸血鬼の男は焦った。自分がこの青年に臆していたことに。相手はただ立っているだけなのに? 「吸血鬼か?」 それが青年の最初の一言だ。 「だとしたら?」 男は素早く隠れている場所を移動した。青年から普通とは違う何かを感じていたからだ。 「……ヴァンパイアクイーンを探している。お前……知らないか?」
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