序章

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コツン、コツン…   雑居ビルの立ち並ぶ路地裏。 乾いた足跡がなり響いた。   時間はすでに午前1時を過ぎた頃だろうか。大通りは人が行き来し、店のネオンはこうこうと輝いている。  まったく、この街は眠ることを知らない…   佐倉アキラは吸っている煙草を消しながら、ふとそう思った。 いつからか、携帯灰皿を持ち歩くようになり、それを自然に使っている自分がいた。 昔は平気でポイポイ吸い殻を投げ捨てていた。 いつからか灰皿を探して捨てるようになり、やがて携帯灰皿を使うようになった。   人って自分が気が付いていない間に変わっていくんだな…   雑居ビルの間を抜けるように歩きながら、アキラはふと考えた。   コツン、コツン…   ビルとビルの間の細い道を抜け、大通りへと出た。   人が多い。 もう慣れてはいたが、あらためて見るとアキラにはもの凄く異常な光景に見えた。  各店の電気の光は消えることは無く、辺りを照らしている。 人は眠ること無く、飲む、食う、遊ぶ。 昼間から変わらぬ人の波。  人が利用しに来るから店を開けているのか? 店がやっているから人が集まってくるのか?   まあ、いいや。今夜でこの風景も見納めだしな。   目的のビジネスホテルに着いてアキラは考えるのをやめた。       「次は~、次は~。」   揺れる電車の中、アキラは目をあけた。   はぁ、もう少しで着いちまうな…   今更ながら気が重い。 実家に帰るのは6年ぶりだろうか。 たしか26歳の時に中学の時の友人の結婚式に出席したきりだった気がする。 それ以来、実家には1度も帰っていない。   6年ぶりか…俺もう32だもんなぁ…   実はその32歳の男が実家に6年ぶりに顔をだし、しかもそのまま暮らす事になっている。 俗に言う、出戻り。   でかい面をして大見栄きって実家を飛び出したアキラ。 できることならこんな状況で帰りたくはなかった。   しかもこの歳になって、親のスネをかじらなくてはならないことになっている。 家業を継ぐために父親と一緒に仕事をしている弟もいる。 弟からしたら、でかい口叩いた兄貴が都会に負けて戻って来る。と思ってるかもしれない。 まあ、まさにズバリその通りなのだが…   気が重い…気が重いが…   「次は~、~。」   電車は6年ぶりにアキラを連れて、アキラの生まれ育った町に着いた。
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