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階段を降りてリビングに向かい、テーブルの上に置いてあるサンドイッチに目を向ける。
「トマトサンドだ」
姉が言っていた通り、朝用なのか昼用なのか分からないがサンドイッチが三つ皿の上に作られてあった。ご丁寧に私の好物のトマトサンドなのが憎い演出だ。
「いただきまぁす」
誰に言うでもなく顔も洗わずに食欲を満たす事を優先する。
いいじゃないか。どうせ誰も見ていないのだから。行儀が悪かろうと食べた後でちゃんと洗えば問題はない。
――とその時、インターホンが鳴った。
「あぁ? 誰よこんな時間に」
こんな時間、と言ってもまだ昼だ。
今起きたばかりの私が言うのもなんだが、せっかくの食事を邪魔されて気分が悪かった。
もう一度鳴ったインターホンに、文句を言いながらも私は出る事にする。
無視してもいいが何となく気になって食べづらい。食事は誰にも邪魔されずに気分よく取りたい。
「はぁい、どなた? あぁ? 宗教だぁ? 誰が入るか! お前らの神に祈るくらいなら野良犬に助けを求めた方がマシだ!」
熱心な信者の勧誘に怒鳴る。純粋に信仰している人には悪いが、生憎と私には信仰する神様はいない。
神に祈って救われるなら、父さんも母さんもまだ私達姉妹の傍に居てくれた筈だ。
「ったく、こっちは寝起きだっつーのに」
そんな事、宗教勧誘の人が知っている訳がないと分かってはいるが、そんな風に愚痴ってやりたい気分だった。
「そういうこと考えろっつーのよ」
無理言うな。
自分で自分に突っ込みを入れる。
気分を変えてサンドイッチを頬張りながら、ドカッとソファに座ってテレビの電源をいれた。
姉が見たら確実に怒られる。行儀が悪いのは生まれつきだから仕方ないんです。
私達の家には両親はいない。姉との二人暮らしだ。
私達の両親は、私が小さい頃に他界していて、私は姉に育てられてきた。
両親の記憶はないが、今よりもっと小さい頃は親がいる子が羨ましいと思った事もある。
姉さんは私を一杯愛してくれたし、親の遺産と親戚からの援助でひもじい思いをするような事もなかったのが救いだった。
そんな風な事を考えていると、膝の上に猫が飛び乗ってきた。
「なぁにダイナ。お腹が空いたの?」
ダイナは私の言葉に返事をするかのように鳴いた。
「ふふ、私も今からご飯なの。ダイナにもご飯あげるから一緒に食べよ」
私がそう言うと、ダイナは私の言葉を理解したかのように膝の上から飛び降りて、キッチンの方へ歩き出す。
私はその後をついて棚からキャットフードを取り出し、ダイナ専用の皿に入れて彼女の前に置く。
「はい、どうぞ」
ダイナは嬉しそうにキャットフードを食べる。何て可愛いのだろう。とても癒される。
先程までの苛立ちや感傷など一瞬で吹き飛んで、暫しその姿を眺めた。
すると、突然視界がぐにゃりと歪み、頭がぐらりと揺れた。
「なに? 目眩が――」
――ス。
ドクン。
――アリス。
「――っ!! 痛っ」
猛烈な頭痛に襲われて頭を押さえる。
ガンガンと響くように痛む頭に、思わず涙が滲む。
「あ、頭が――割れそう!」
――アリス。さぁ目覚めろ。
目覚めるってなに? 私は起きてるわよ。
―――アリス。目覚めの刻が来た。
だからもう起きてるって!
――さぁ、ここまでおいで。
「な、にを――言って」
テレビの映像が突然途切れるように。
私の意識は途絶えた。
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