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「――う、ん」
暗闇の中で目が覚めた。
夜か? なんてボケはいらないか。
どう考えてもそこは自分の家ではない。
というか、現実の風景ですらなかった。
周りは真っ暗なのに、何故か私にはその空間には物が存在しないという事がはっきりと分かった。
不思議だ!
これが明晰夢というものなのだろうか!
「どこ? ここ――」
「ふふふ、やっと会えたねぇ。アリス」
謎の声が空間と頭の中に木霊する。
「誰じゃ!?」
思わず年寄りのような言葉が出た。
反響している筈なのに背後からの声だと不思議と理解していた。
振り返るとそこには一人の男が立っていた。
純白のスーツを身に纏い、白いシルクハットを頭に被って、その下から覗く癖のある髪の毛さえも白く輝き、瞳と首元の蝶ネクタイだけが血のように真っ赤に際立っている。
「あんた――誰?」
見るからに不審者だと分かる男に問う。
「俺は白いウサギだ」
変質者だ。
そう確信した。
「頭でも打ったの?」
男は明らかに人間の姿をしていて、とてもウサギなどには見えない。
自分をウサギだと思い込む精神異常者なのかもしれない。
「白いウサギとはただのコードネームの様なものだ。まぁそんな事はどうでもいい。――アリス。お前には俺と一緒に来てもらうぞ」
「はぁ? なんで私があんたみたいな変質者なんかと一緒に行かなきゃならないのよ。馬鹿じゃないの。そんな誘いにホイホイついていく女はいないし、かっこつけてるつもりかもしれないけどキモイだけだから。少しはファッションと女の子の誘い方を勉強した方がいいわよ」
「はは。お前はもう逃げられない。どこへも行けない。俺と一緒に来るしかないのさ。――黄昏の国へな」
にやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべながら自称白いウサギがそう言うと、いきなり周りが明るくなった。
「な――何よこれ!」
私はあまりの眩しさに目を瞑った。
瞼越しにも光は強烈に私の網膜を刺激して、痛みさえ与えてくる。
「ようこそアリス。俺たちの世界へ」
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