夕暮れに染まる国

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「何故あんな所で寝ていたって聞かれても、正直私にも分からないの。ここ何処よ。私は何でこんな所にいるの? あなたは何でモグラなの? 人じゃないの? ってか名前なんだっけ?」 アリスはモグラ質問に答え、矢継ぎ早に質問を返した。 「アリスか。いい名だね。私の名前はセントルハードだよ。ここは私の家で、君は私が運んだからここにいるんだ。でもどうしてあんな所で寝ていたのかは分からないんだね。不思議だなあ」 セントルハードは律儀に質問に答えて首を傾げた。尤もモグラが首を傾げたところで分かる筈もない。  そもそも首があるのかどうかさえ判断に困る。頭以外全部胴体に見える。 アリスは生物学には詳しくないのだ。 「ふーん。ねぇモグリン。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」 名前を二度も教えて貰ったのにあだ名で呼ぶところからすると、セントルハードの名前を覚える気など始めからなかったのだろう。  ならば最初から聞くべきではないだが、アリスはそういう娘だった。 「モグリン!? なんかゴブリンみたいな響きで嫌だなあ。まぁいいか。それで? 私に聞きたい事とはなんだね?」 セントルハードはかなり大らかな性格のようだ。  これでアリスに怒るような性格だったなら最悪だった。アリスは巨大なモグラに襲われて生き延びる術など持ち合わせていないのだから。 「あのね。白いウサギって自分で名乗る気持ち悪い変質者、知らない?」 アリスは、自分をこの不思議な場所に連れてきたと思われる白いウサギの事をセントルハードに尋ねた。  どうやら彼に対するアリスの認識は変質者で固まったようだ。 「白いウサギだって? いやいや。私は知らないなぁ」 セントルハードはどうやら白いウサギについては何も知らない様だ。  ステッキを持っていない方の手で顎を掻いているから間違いないだろう。 ところでどうして家の中なのにステッキを持っているのだろう。シルクハットも被る必要はない筈だ。キャラ付けにしたって主張しすぎである。 「じゃぁ、もう一つ質問してもいい?」 「勿論、構わないよ」 セントルハードは首を縦に振った。 首というより頭を振ったという表現の方が正しいかもしれない。 「ここってもしかして黄昏の国?」 何となく――そう尋ねてみた。 あの妙にリアルな夢の中で、変質者が口にしたその言葉が頭の中にはっきりと残っていた。 「あぁ、そうさ。ほら。窓の外を見てごらん」 セントルハードは窓の外を指差して言った。アリスは彼の言葉に従って窓の外に顔を向けた。
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