千住宿

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大川(隅田川)の朝は早い。 しらじらと明け始めると、そこここから荷を運ぶ船の櫓の音、あいさつを交わす船頭たちの声が聞こえてくる。 日本橋から奥州日光街道を北へ辿ると、最初の宿は千住であるが、この大川をはさんで北を〔小千住(こせんじゅ)〕、南を〔大千住(おおせんじゅ)〕と言った。 千住の宿には、さまざまな生活用品を売る店のほかに、旅の客を泊める旅籠(はたご)はもちろん、その客の酒販の相手をする飯盛女(めしもりおんな)を置く店も少なくない。 飯盛女は、酒販の相手とはいっても、金しだいでは客と枕をともにすることもあり、千住女郎の、気っぷの良いもてなしぶりは、日光街道を旅する男たちの間でも評判であった。 小千住にある〔山城屋〕は、大通りから少し離れた大川端にあり、専用の船着き場を備えた大きな宿屋で、飯盛女も十人ほど抱えている。 主人の庄衛門は、なかなか練れた人物で、自分の抱えている女たちの面倒もよく見ていた。 かの、も、そんな山城屋の飯盛女の一人である。
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