生い立ち

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かのの生まれは、千住からもさほど遠くない板橋宿で、古着屋をいとなむ両親と弟の四人で暮らしていた。 小さいながらも店をもち、商いに精を出す両親との、つつましいけれど明るい生活が崩れたのは、ある時、ふらりと現れた父仙助の実の兄の宇吉が、家族と一緒に暮らすようになってからだった。 「すまないが、一月ほど、厄介をかけるよ」 そう言っていた宇吉であったが、その後、二月、三月が過ぎても、一向に出ていく気配を見せぬ。 かのたちも、決して裕福な生活をしていたわけではないから、ある時、仙助が、 「兄き、悪いが、そろそろ出ていっちゃあくれめえか……」 そっと切り出した。 すると、今までのおとなしい態度が一変して、 「てめぇ、それが実の兄に言う言葉か!」 したたか仙助を殴りつけ、店の売り上げをつかんで飛び出していった。 それからというもの、宇吉はあきらかに無頼の徒とわかる連中を連れてきては、一家のなけなしの金を奪っていく。 その度に殴りつけられる父と母を、かのと弟の正太郎は、ふすまの陰で震えながら見ていた。 そんな生活が半年ほど続いたある日、いつものように酒を飲んでいた宇吉が、台所にいた、およしを後ろから殴りつけ、ぐったりとなったおよしに、いきなり覆いかぶさった。 それを、買い物から帰ったかのが目の当たりにし、叫び声をあげたものだから、逆上した宇吉は、今度はかのを殴りつけ、その細く小さいからだに馬乗りになった。
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