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伸一は面食らい、黙って右手で頭を掻いた。
ズバリ図星である。
兄貴を誤解しないで欲しい。
実は優しくて面倒見良くて、悪人面だけど性根はいい人間なんだ。
でもって、名山の伝説は凄まじい内容だけど、本人も本当に凄まじい人格で。
たまに壊れたら面白くて、とことん飽きない超人で。
……そんな言葉を伝えるため、三笠の元に戻ったつもりだった。
「なんでバレた?」
「顔に書いてるし。黒川くんの悪口言いながらも、顔中に『兄貴大好き』って」
「ま、マジで!?」
慌てて間抜けに額を擦る。
はたと我に返り、コホンと空咳して誤魔化した。
そんな伸一をよそに、三笠は自分と伸一のパイプ椅子を元に戻し、開け放たれた窓を閉め始めた。
手伝おうとする伸一に笑顔を向け、右手を軽く振る。
「いいから早く黒川くんと帰ったら?」
「兄貴の足じゃ、今頃家に着いてるかも。鞄ひっくり返して既にレッツ・スタディ」
「大袈裟ねぇ。とにかくここは私が責任持って戸締まりするから」
黒板の隅に落書きされた意味不明な言葉に眉をひそめながら、もう一度右手を振った。
伸一は仕方なく戸口に向かう。
それきり伸一を振り返ることはなく、三笠は黙ってひたすら黒板と戦っていた。
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