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しばらく書斎に沈黙が落ちた。
悠一はソファに深々と腰を落ち着け、昇の次の言葉をジッと待つ。
隣でペン先を止めたまま、伸一は2人の様子を見守った。
秒針が奏でる規則正しい音色が、沈黙に支配された書斎の重厚感を引き立てる。
窓から届く外界の喧騒も、秒針と同じ役割を果していた。
やがて悠一がのんびりコーヒーに手を伸ばしたその時だった。
事態は急変した。
昇の頭がガクンとうなだれた。
と同時に、身体がビクリと痙攣した。
悠一に緊張が走る。
鋭い眼光を昇に突き刺す。
ユラリ。
ユラリ。
釜をもたげるかのように上がった昇の顔が、悠一の正面で止まった。
『最初から頼んでない。要らぬ世話だ』
声色が変わっていた。
元の彼の頼りない声と、それに重なる野太い声。
その二つが音声多重になっていた。
悠一はとっさに腰を浮かせた。
座ったまま固まる伸一の前に徐々に体を移動する。
やがてすっぽり弟を覆い隠す位置で立ちはだかり、『三笠昇』を見据えた。
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