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「三笠さん。どうかされましたか? 気が変わりましたか?」
あくまで冷静に切り返す。
臆病で神経質な雰囲気が一蹴された三笠昇は、両手をズボンのポケットに突っ込んでこちらを睨んだ。
『変わるも何も最初からその気はない。ここが私の居場所だ』
「……ここ?」
『そう。こ・こ・だ』
言葉を区切りながら、ポケットからスッと引き抜いた右手の親指で、自分の胸元を三度突いた。
次の瞬間。
一旦かがみ込んだかと思うと、テーブルと向かいのソファを飛び越えた。
乱暴にドアを押し開けた昇の気配は、玄関の外へと消えた。
書斎に残された兄弟は、互いに顔を見合わせ同時に口を開いた。
「大丈夫か?」
「兄貴大丈夫?」
開け放たれたドアは、壁に激突して戻って来ている。
目の前で起きた現実を理解するのに、コーヒーの湯気が消えてしまうほどの時間がかかった。
「……おそらく、彼の炎恐怖症はトラウマによるものじゃないな。俺達の分野外だ」
「う、宇宙人かなあ。乗っ取られたんだな、あの人」
たぶん大口開けたら中にも顔が入ってるよ。ちっちゃくて黄緑色したやつ。
「気色悪い事を抜かすな馬鹿者。鯵の寄生虫じゃないんだぞ。……まあとにかくだ、この件は他をあたってもらう。三笠には明日俺が伝えておく」
「うん。大幅に路線がズレてるよ」
頭を傾げる弟を無視して、冷めたコーヒーに手を伸ばす。
見たくないものを見た。
聞きたくないことを聞いた。
後味の悪さをスパイスに、コーヒーの苦味が増した気がした。
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