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「なによその目」
今度は左の肩を力強く突かれた。
これもなんとか辛うじて堪え、もう一度顔を上げた。
それきり6人の言葉が途切れた。
この現象は、何か次の段階に進む不吉さを予感させた。
泣きそうだ。
凄く怖い。
出来ることなら頭を下げて、もう止めてくれと許しを請いたい。
でも出来ない。
やっちゃいけない。
それは、こんな理不尽な暴力に屈した証だし、負けを認めた弱みになる。
黒川くんなら絶対に屈しないし負けたりしない。
里子はそう考えて自分を鼓舞し、『黒川くんなら』と繰り返す。
黒川くんなら、こんな時どうするだろう。
彼ならこんな場面で当事者にはならないけど。
被害者になる確率がゼロだとすれば、加害者になる確率はマイナスが付くくらい有り得ないけど。
でももし黒川くんが私の立場だったとしたら…。
黙って耐えるだろうか。
……怒りを。
里子は不謹慎ながらも吹き出してしまった。
それは絶対に、有り得ない。
目の前で6人の顔色が変わり、目を吊り上げて口を開きかけた時、里子はそれを制するように笑いをおさめて言った。
「…あの、1つ聞いていい?」
『おい、1つ聞いていいか?』
6人はさすがに不意をつかれた様子で、それぞれが顔を見合わせた。
やがてすぐに1人が尖った返事を返す。
「なによ」
「あんた達、黒川くんの事本気で好きなの?」
里子の質問に、全員が狼狽したようにキョロキョロする。
何を聞くんだこの子は、という里子への困惑ではなく、問われた返事に窮する自分自身への困惑が見え見えだった。
しかしさすがは精鋭部隊。
すかさず態勢を整え、里子に向き直る。
「好きに決まってんじゃない。あたしらだってどうでもいい男のためにハイエナ駆除するほど暇じゃないのよ」
「そそ、受験生だし~」
里子はその答えに、大袈裟な息を吐いてニッコリ笑った。
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